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ドローインとブレーシングはどう違う?

ドローインとブレーシングの違いを解説する記事のアイキャッチ画像

体幹を鍛えようと調べていると、「ドローイン」と「ブレーシング」という二つの言葉に行き当たります。ある指導者は「ドローインで深層筋を鍛えよう」と言い、別の人は「ドローインは古い、ブレーシングの方が科学的に正しい」と言う。何を信じればいいか迷ってしまうのは自然なことです。

混乱の原因は、この二つが「どちらか一方が正解」という問題ではないからです。ドローインとブレーシングは仕組みが違いますが、最終的には組み合わせて使うものです。この記事では、それぞれの役割と、組み合わせてどう機能するかを整理します。

目次

それぞれ、何をしているのか

ドローインは、息を吐くことでお腹が自然と締まる感覚を使う動作です。意識は「お腹を凹ませること」ではなく「息を吐くこと」に置きます。息を吐くことによって腹横筋(ふくおうきん)という深層の筋肉が収縮し、コルセットのように腰椎を横から締める感覚が生まれます。(このことから腹横筋はコルセット筋と呼ばれることがあります。)表から見える腹直筋(いわゆる「シックスパックの腹筋」)とは役割が違い、意識して凹ませようとするとむしろ腹直筋が先に動いてしまいがちです。

ブレーシングは、お腹を全方位に張って固める動作です。腹直筋・腹斜筋・腹横筋など腹部のすべての筋肉が同時に固まり、お腹の内側の圧力(腹腔内圧、略してIAP)を一気に高めます。ポンプの空気が風船を内側から押し広げるように、圧力で体幹全体を支えるイメージです。筋力が弱い段階ではブレーシングをしてもお腹が圧力で膨らみやすく固定に時間がかかりますが、鍛えるほどその膨らみが抑えられ、すぐに安定した固定状態に入れるようになります。

柔道整復師として現場でよく使う例えがあります。長細い風船(長風船)を想像してください。ゴムだけを締めても空気が入らなければ柔らかいまま折れやすい。空気だけを入れてもゴムが弱ければ横から潰れる。両方あって初めて棒のように硬くなります。ドローインがゴムの締まり、ブレーシングが内側の空気圧にあたります。

ドローインブレーシング
動作お腹を引き込むお腹を全方位に張る
主に使う筋肉腹横筋(深層)を単独で先行全腹筋の同時収縮
腹腔内圧(IAP)への影響小さい(約10 mmHg)大きい(約116 mmHg)
体幹への作用コルセット(腹横筋)を締める腹腔内圧を高めて圧力で支える

※ mmHgは血圧と同じ圧力の単位。Tayashiki et al., 2016 の実測値より。 ※ 腹横筋を収縮させてから腹腔内圧を加えることで、固定力がとても強力になります。(現場での考え方)

「ドローインは意味がない」は本当か

「ドローインは古い・意味がない」という言説の根拠は、腹腔内圧の実測データにあります。ブレーシングでは約116 mmHg(血圧の上限として一般的に知られる数値を大きく超える圧力)の腹腔内圧が生じるのに対し、ドローインではわずか約10 mmHg。重いものを床から持ち上げるときや激しい動作中に腰を守るには、この差は決定的です(Tayashiki et al., 2016)。「高負荷の運動中にドローインだけでは腰を守れない」という批判はその通りで、ドローインだけの状態で高重量を持ち上げれば、腹圧が足りず腰が丸まるように折れやすくなります。

一方で、ドローインにしかできないことがあります。それは腹横筋を「他の筋肉より先に、単独で動かす練習」です。研究によると、ドローイン中に腹横筋は他のすべての腹筋より先に活性化し、約1.1秒間だけ単独で働き続けることが確認されています(Morito et al., 2022)。ブレーシングでも腹横筋は使われますが、他の筋肉と同時の収縮になるため、この「腹横筋だけが先に動く」という練習にはなりません。長時間座り続けていたり、腰痛が繰り返されていたりすると、この「腹横筋が先に動く」神経の回路が鈍りやすいことがわかっています。

つまり、腹横筋を働かせることを意識していないと遅れて動いてしまうので、いざという時に使いたい強力な支えを失ってしまうことになります。

「ドローインは意味がない」という言説は、高負荷の運動中にドローインだけで腰を守ろうとすれば正しく、「どちらかを選ぶ問題」として立てた時点でそもそも問いが間違っています。ドローインで腹横筋を収縮させ、そこにブレーシングで腹腔内圧を加える。この組み合わせが体幹の固定力を強力にします。どちらが優れているかではなく、両方を使えるようになることが目標です。

どちらをいつ使うか

長年のデスクワークや腰痛を繰り返している状態では、「お腹に力を入れているつもりなのに、体幹が使えている感覚がない」ということが起きやすくなります。表面の腹直筋や腰まわりの筋肉が先に動いてしまい、深層の腹横筋が後回しになるためです。このステージでブレーシングを取り入れても、表層の筋肉がさらに優位になりがちです。まず腹横筋の感覚を取り戻すことが先です。

ドローインのやり方

腹横筋の感覚の掴み方として、現場でお伝えしているのは次の方法です。

  1. 仰向けに寝て膝を立て、骨盤をやや後ろに倒して腰を床に近づけます。
  2. この姿勢でゆっくりと息を吐くと、お腹が自然と内側に締まる感覚が出やすくなります。

骨盤が前に倒れた反り腰の姿勢では感じにくいため、「いくら試しても感覚がつかめない」という方はまずこの姿勢から試してください。

ブレーシングのやり方

ドローインで腹横筋の感覚が掴めたら、次はブレーシングも練習してみましょう。

  1. 自然な姿勢で軽く息を吸います。
  2. お腹を全方位に膨らませるように力を入れ、そのまま固めます。
  3. その状態を維持しながら呼吸を続けます。(高重量時は止める場合あり)

ドローインとブレーシングができた後のSTEP

吐き切ってもお腹の力を緩めずに次の息を吸い込めるようになると、次に吐いた時、さらに強い収縮を感じられます。吐くたびに収縮を感じ、一方通行のようにお腹周りを締める呼吸運動をコルセット呼吸と呼んでいます。この呼吸ができることを目指しましょう。

腹横筋の感覚が掴めたら、次はプランクなどで体幹を板や棒のように保つ練習に移ります。この段階にきてはじめて、ドローインで目覚めた腹横筋とブレーシングによる腹腔内圧が組み合わせて運用できます。

さらに、その状態を保ちながら体を動かせるようになると、高重量のウエイトトレーニングなどにも負けない体幹の使い方が手に入っているはずです。

状態アプローチ
腹横筋の感覚がない・腰痛リハビリの初期ドローインで腹横筋を起こす
日常動作や運動中に体幹を固めたいブレーシングで腹腔内圧を高める
本来の体幹の使い方両方が組み合わさったうえで自動で機能する

「日常でも体幹を意識し続けよう」が逆効果になる理由

「座っているときも立っているときも、常にお腹を意識しましょう」という指導を受けた経験がある方もいると思います。しかし、日常の中でドローインでもブレーシングでも「常時意識し続けること」は逆効果になりやすいパターンです。引き込もうとし続けると腹直筋の使いすぎで呼吸が浅くなり、張り続けようとすると体幹全体の緊張が高すぎる状態になって横隔膜が自由に動けなくなります。体幹を「意識して固め続ける場所」にすると、自然な呼吸と動作の妨げになります。

目標は「日常でも意識できること」ではなく「意識しなくても使える状態を作ること」です。そのためにトレーニング中は強く意識することが重要になります。プランクや動作練習で「腰が動かせる限界の位置を保つ」「お腹に圧力を感じる」という強い意識で繰り返すほど、神経と筋肉の連携が鍛えられます。

この繰り返しが積み重なると、体幹の深層筋は「意識して動かす筋肉」から「動く瞬間に脳が自動的に先行させる筋肉」へと変わります。意識的なトレーニングを積むからこそ、その後に「考えなくても入る」体幹が育ちます。日常で意識する必要がなくなることが、トレーニングの成果です。

使いすぎの筋肉とサボりがちになる筋肉の関係については、姿勢が崩れやすい・症状が戻りやすい理由と合わせて詳しく解説しています。

まとめ

  • ドローインとブレーシングは「どちらが正しいか」ではなく「何をするか」が違う。
    ドローインは腹横筋(コルセット)を収縮させ、ブレーシングはそこに腹腔内圧を加えて圧力で支える。それぞれに異なる役割があり、組み合わせて使うものです。
  • ドローインとブレーシングは組み合わせて使うもの。
    ドローインで腹横筋を収縮させ、そこにブレーシングで腹腔内圧を加えると固定力がとても強力になります。この体幹の使い方をプランクで確認し、さまざまな動作へ応用していくことが体幹トレーニングの目標です。
  • トレーニング中の強い意識は推奨、日常での常時意識は逆効果。
    意識的な練習の積み重ねが、動く瞬間に自動で体幹が入る状態をつくります。

体幹は「意識して固める」から「動くときに自動で入る」へ変わることで、はじめて腰や肩への負担が減りやすくなります。ドローインかブレーシングかという二択ではなく、両方を組み合わせた体幹の使い方をプランクで体感し、各動作に応用していくことが目標です。

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