「姿勢、気をつけてくださいね」と言われて背すじを伸ばしても、気づけば元通り。そもそも“良い姿勢”が具体的にどんな状態なのか、はっきりとは説明できない——。そんな方は多いと思います。
先に結論をお伝えします。良い姿勢は、頑張って「正す」ものでも、整体で「治してもらう」ものでもありません。自転車の乗り方と同じで、知って・練習して身につける「技術」です。
この第一章では、良い姿勢とはどんな状態か、なぜ崩れるのか、そしてどんな順番で改善していくのかまで、姿勢の基礎知識をまとめました。
良い姿勢とは
良い姿勢とは、耳・肩・股関節・膝・くるぶしが一直線に整い、なおかつまっすぐに立った姿勢のことを指します。この教科書(RAM)では、5か所のポイントを骨の軸ポイントと呼びます。ここで扱う良い姿勢は、まず横から見た「立ち姿勢」の基準です。

なぜ一直線が良いのか
線が揃っていると、体重を骨格で受け止めやすくなるからです。反対に、立っているときや座っているときに崩れた状態が続くと、支える仕事の一部を筋肉が肩代わりしやすくなってしまいます。これが「立っているだけ・座っているだけで疲れる」の一因になります。

良い姿勢で骨に乗れると、それまで重さを支えていた肩や腰の筋肉など、一部への負担が偏りにくくなります。
良い姿勢・崩れ・悪い姿勢の違い
良い姿勢は、耳・肩・股関節・膝・くるぶしの5つの骨の軸ポイントが揃った状態です。5つの骨の軸ポイントが揃っていない状態を、この教科書では崩れと呼びます。崩れは身体の状態を表す言葉で、それだけでは良い・悪いの評価を含みません。
歩く、しゃがむ、腕を上げるといった動作では、5つの骨の軸ポイントは揃わなくなります。しかし、これは身体を動かすために必要な崩れです。
一方、崩れのうち、その場面や目的から見て悪いと評価されるものを、この教科書では悪い姿勢として扱います。たとえば、立っているときや座っているときに、動作に必要のない崩れが続き、一部への負担が偏っている状態です。悪い姿勢とは、身体そのものが悪い・欠陥があるという意味ではありません。
崩れる場所によって猫背・反り腰・スウェイバックなどと呼び分けますが、名前は入口にすぎません。
また、すべての崩れを悪い姿勢として扱うわけではありません。
- 5点が揃っていない状態はすべて『崩れ』。
- 崩れのうち、場面や目的から見て問題になるものが『悪い姿勢』。
- 5点揃っている場合のみ『良い姿勢』。
この教科書では、このように整理して考えます。
チェック方法
まず鏡の前に横向きに立って姿勢を確認する方法が手軽で確実です。骨の軸ポイントの細かい場所をチェックしていきましょう。

耳:耳の穴(外耳道)

耳の穴が、骨の軸ポイントの最初の位置です。鏡でチェックするときは、首だけ横に振り向いて見ます。このとき、肩は一緒に動かさないようにしてください。
ただ、振り向くと耳の位置は後ろにずれてしまいます。そこで、振り向いた側の目尻を基準にします。指を耳の穴に軽く置き、その指がずれないように振り向いて、目尻が指のあたりに来た状態で確認してください。
肩:骨の出っ張り(肩峰)

肩の外側にある骨の出っ張りです。鎖骨を肩先まで辿るとわかりやすいです。
股関節:骨の出っ張り(大転子)

良い姿勢の基準は股関節の位置です。ただし、股関節の中心は体表から正確に確認しにくいため、鏡でチェックするときは、外側から触れやすい骨の出っ張り「大転子」を目印にします。
腸骨稜(骨盤の上の縁)と間違えてしまう方が多い場所です。腸骨稜から手のひらで触れながら下へ下がると骨の出っ張り(大転子)が分かります。
膝:お皿の裏と関節の間

膝はお皿の裏のすき間のあたりを見ます。
くるぶし:骨の出っ張りの少し前(外果やや前方)

くるぶしは頂点ではなく、少し前の、骨の出っ張りが盛り上がり始める所を見ます。ここを基準とした垂直線から、どの骨の軸ポイントがずれているかをチェックします。
おそらく多くの方が、股関節と耳が特にずれていると思います。
崩れ方は猫背・反り腰などタイプが分かれますが、どのタイプでも改善の方向は同じです。まずは、自分がどこの軸ポイントをずらしやすいかが分かれば十分です。
良い姿勢になれない原因
ここからが、この章の本筋です。「良い姿勢になれない」と「良い姿勢が続かない」は原因が別なので、分けて考えます。まずは「なれない」から。
①揃え方を知らない
一番大きな理由は、揃え方を知らないからです。これには二段階あります。そもそも揃える「位置」を知らなかった段階と、位置は知っていても「どう体を動かせば揃うか」を知らない段階です。
おもしろいことに、揃える「場所」(耳・肩・股関節…)を知っている人でも、たいていズレます。場所は分かっても、「どう揃えるか」を知らないからです。いま精一杯の良い姿勢を作って横から写真を撮ると、軸ポイントのどれかがズレていることがほとんどです。
黒板にまっすぐな線を引こうとしても、手だけでは難しい。でも定規があれば、自分の手でまっすぐ引けます。良い姿勢にも、この定規のように使える感覚の基準が要ります。目指す位置へ戻るための基準が手に入れば、あとは意識して合わせるだけ。ぐっと作りやすくなります。

②柔軟性が足りない
もう一つ、柔軟性が足りない場合もあります。揃え方を知っていても、体が硬いせいで、揃う位置まで動かせないケースです。ただし、柔らかくするための特別なメニューを別に用意する必要はありません。この教科書では、動かせる限界の位置を感じるくらい大きく動かす練習を重ねていくので、良い姿勢に必要な柔らかさは、その練習の中で一緒に育てていける設計になっています。
そもそも姿勢は崩れるもの
では、揃え方を知って良い姿勢を作れたら、それで終わりでしょうか。ここで大事な前提があります。姿勢は、そもそも崩れるものだということです。
一歩歩いたり、物を取ろうと手を伸ばしたりした時点で、5つの骨の軸ポイントは揃わなくなります。つまり、動けば姿勢は崩れます。これは悪い姿勢という評価ではなく、身体を動かすために必要な崩れです。
崩れることが前提だからこそ、崩れないように過ごすことを目標にはしません。不可能だからです。本当の姿勢改善では、次の2つを目指します。
- 崩れるにしても、必要最小限の崩れに抑える
- 崩れたことに自分で気づき、良い姿勢へいつでも戻せる
動作に必要な崩れは許し、そのなかで崩れを必要最小限に抑える。必要な動きが終わったら、自分で良い姿勢へ戻す。この2つが鍵になります。

特に崩れやすいシーン
特に次のような場面では、むしろ姿勢はより崩れやすいです。
- 回復中(睡眠、疲れている時、気分が落ち込んでいる時など):リラックスを最優先して、重力に身を任せて脳と体を回復させたい時間です。良い姿勢をつくるどころではありません。
- 活動中(歩行時、運動、速い動作):体を動かしている最中、軸ポイントを一直線に保つのは、そもそも不可能です。手をしっかり伸ばす、しゃがむなど、どうしても背中が丸まる動きがあります。
- 思考中(勉強、仕事、ゲームなど):集中している時は、良い姿勢を保とうと思えば保てます。ただ、文字を目で追ったり深く考え込んだりするうちに気づかないまま崩れているものです。

このほかにも、注意がそれる、疲れがたまる、椅子や机が合っていないなど、姿勢が崩れる要因はいくつもあります。崩れるのは、あなたの意志が弱いからではありません。
得意な動作と苦手な動作
さらに、体には意識しなくてもできる得意な動作と、意識しても難しい苦手な動作があります。
例えば、肩を上げる動作は、多くの人が意識しなくてもできます(そのぶん、耳が前に流れがちです)。反対に、肩をしっかり下げる動作は、意識してもうまくできない人が多い動作です。肩をしっかり下げられると、耳の位置を肩に揃えやすくなります。
そして崩れた後、良い姿勢へ戻るときに必要なのは、たいていこの苦手な動作のほうです。だから、苦手が苦手のままだと、崩れたあとに戻れず、崩れたままになりやすいのです。
良い姿勢を24時間意識し続けるのは、ほぼ不可能です。でも崩れっぱなしで過ごすと、痛みや見た目につながることがあります。
だからこそ、崩れるにしても必要最小限に抑え、崩れたことに自分で気づいて、良い姿勢へいつでも戻せるようになることが、本当の姿勢改善です。良い姿勢は固定して守り続ける形ではなく、崩れを調整し、必要なときに戻せる技術です。

悪い姿勢で過ごすデメリット
「どうせ崩れるから……」と意識するのをやめ、姿勢が崩れた状態で長く過ごすと、肩や腰など一部へ負担が偏ることがあります。また、見た目の印象にも影響が出ることがあります。
肩こり・腰痛になりやすい負担のかかり方
良い姿勢は、骨の軸ポイントが揃っているぶん、体重を骨格で受け止めやすい状態です。反対に、悪い姿勢では支える仕事の一部を筋肉が肩代わりしやすく、同じ体の使い方が続くほど、肩や腰、膝、ふくらはぎなど一部へ負担が偏ることがあります。この負担の偏りは、よくある不調の要因の一つになることがあります。姿勢だけが原因とは限りません。
また、ここで一つ大事なのが、痛みは「いま痛い要因」と「また戻る要因」を分けて考えることです。
例えば、筋肉の緊張が「いま痛い要因」の一つなら、整体・ストレッチ・温めなどで緊張がやわらぎ、一時的に楽になることがあります。でも、いつもの使い方に戻るたび同じ部位へ負担が偏るなら、体の使い方も「また戻る要因」の一つとして見直します。
なお、痛みやしびれが強い場合や、長く続く場合は、自己判断で続けずに医療機関へ相談してください。
見た目の印象への影響
姿勢は、見た目の印象を大きく変えます。『姿勢は一生モノの服』という言葉があるくらいです。骨の軸ポイントを揃えることで、以下のような変化を観察できます。これは特別な効果の約束ではなく、体の使い方が変わるとそう見える、という仕組みの話です。
小顔に見える
肩が下がることで、外から見える首の範囲が広がり、首が長く見えます。また、肩のシルエットが強調され、頭との対比で顔が小さく見えます。
身長が高く見える
猫背などで前に縮んで見えていた上半身が縦へ伸び、立ち姿が高く見えます。
痩せて見える
下っ腹が引き上がり、お尻の位置が上がり、上下との対比が生まれます。脚は細く、長く、くびれも強調されます。
逆に言えば、悪い姿勢が続くと、これらは反対向きに見えやすくなります。つまり、ネガティブに見えやすい状態が続きやすい、ということです。
姿勢改善の流れ

この教科書が、どんな順番であなたを導くのか。全体像をここで示します。学習の段階は6つあり、この6つを第1章から第5章までで順番に進めます。
1.姿勢の基礎知識を覚える☑
このページの内容です。良い姿勢とは何か?なぜ姿勢が崩れやすいかを知らないと対策ができません。ここまで読んだあなたは、すでに第一歩を踏んでいます。
2.骨の軸が揃ったと判断できる位置の感覚を知る
どんな姿勢タイプの方でも、体のいくつかの場所の動かせる限界の位置をはっきり意識できれば、軸へ近づく手がかりになります。
3.狙った場所をしっかり使えたと判断できる感覚を知る
骨の軸ポイントを揃える感覚をつくるためには、苦手であろう動作を組み合わせて、狙った場所をしっかり意識できるようにならないといけません。
4.覚えた感覚を組み合わせて、まっすぐ立つ
苦手な動作を組み合わせて骨の軸ポイントを揃える感覚を実際に作ります。そして、重力と同じ方向にまっすぐ立てていると判断できる感覚があれば良い姿勢の完成です。
5.良い姿勢で“過ごす”ための練習方法を覚える
ここまでで良い姿勢になれますが、ゴールではありません。苦手な動作にまだ慣れていないままだと、少しの動作ですぐに崩れてしまうからです。
骨の軸ポイントを揃える感覚を保ちながら苦手な動作を練習する運動で、苦手な動作を得意な動作に変えて、頼れる使い方を作ります。
ここまで来れば、意識するだけで、いつでも良い姿勢を作り直し、動作中にも活かしやすくなります。
6.無意識でもできるくらい練習する習慣を作る
残念ながら、良い姿勢になれる使い方を覚えても続けていなければ、苦手な動作はまた苦手に戻っていきます。だからこそ、良い姿勢で“過ごす”ための習慣が大切です。続けるから、身につけた使い方が頼れるままでいてくれます。さらに、続けているからこそ苦手だった動作が無意識でもできるようになっていきます。
この教科書の本編は、ここまでの流れ(第1〜5章)でひと区切りです。
ボディメイクや痛みの知識を身につける(追加実践編・随時更新)
せっかく習慣にするなら、姿勢改善だけじゃなくて新しい目標を立てて取り組んだほうがモチベーションがあがるはずです。
効率的に筋肉を増やす方法、痩せる方法、痛みに悩まないための知識も扱います。
まとめ
- 良い姿勢は、5つの骨の軸ポイントが揃った状態。崩れは、揃っていない状態。
崩れ自体には良い・悪いの評価を含めず、その場面や目的から見て悪いと評価される崩れを、悪い姿勢として扱う。 - なれない理由は「揃え方を知らない」こと、続かない理由の主な一つは「使い方のクセが変わっていない」こと。
揃え方を知れば、意識すればいい。そしてクセを変えるためには、苦手を得意に変える。 - 本当の姿勢改善は、必要最小限の崩れに抑え、崩れに気づいていつでも戻せるようになること。
良い姿勢は固定して守り続ける形ではなく、崩れを調整し、必要なときに戻せる技術。
ここまで読み進めたあなたは、良い姿勢の正体と、改善までの道のり全体をもう手に入れています。あとは、この順番どおりに一歩ずつ進むだけです。
さあ、準備はよろしいでしょうか?ここまでで、良い姿勢は身につける「技術」で、それには定規のような感覚の基準が要る、と分かりました。次の第2章では、その定規になる感覚を、実際にあなたの体で一つずつ確かめていきます。
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