「今日は超回復の日だから、トレーニングは休み」。
そう決めて、ジムに行かない選択をしたことはありませんか?
もし、その「休息」が、あなたの成長を妨げる「都合の良い言い訳」になっているとしたら?
この記事では、広く信じられている超回復理論に代わる、科学的で実践的な方法を提案します。
「超回復だから休み」その考えが、あなたの成長を止めているかもしれません
お客様からも「どのくらいのペースで鍛えればいいですか?」という質問を本当によく受けます。
「毎日やったら、これまでの努力が無駄になるのでは?」と、多くの方が不安を感じているのです。
その悩みの根源には、広く信じられている「超回復」という概念への、ちょっとした誤解があるのかもしれません。
多くの人が信じる「超回復」の真実。休む=筋肥大ではない?

「休んでいる間に筋肉が育つ」という一般的なイメージ
多くの方が、「超回復」を「トレーニングで傷ついた筋肉が、48〜72時間休むことで、前より大きく強くなること」と理解しているのではないでしょうか。
確かに、筋肉の修復と成長には休息が不可欠です。
しかし、「しっかり休めば筋肉が効率よく育つ」と考えるのは、少し単純化しすぎかもしれません。
休んでも48~72時間後に記録が伸びてる保障がないからです。
本当に考えるべきは「高いパフォーマンス」の積み重ね
読者の多くは、「いかに効率よく体を成長させるか」に関心があるはずです。
もし、固定的で画一的な「休息」が、長期的に見てあなたの成長効率を下げているとしたら?
大切なのは、効率を求めるのではなく、パフォーマンスを最大化するための手段として「休息」を戦略的に使うことです。
もう迷わない!プロが教える「本当に休むべき日」の科学的な見分け方
とりあえず、2日間開けようではなく、ご自身の身体が発する声に耳を傾けてみましょう。
いつ休み、いつトレーニングに励むべきか、その答えはあなたの身体の中にあります。
これは身体からの赤信号!“休むべき”3つのサイン
以下のような「赤信号」が複数、数日にわたって見られる場合は、勇気を持って休みましょう。
それは「サボり」ではなく、成長のために不可欠な「戦略的休息」です。
- 安静時心拍数の上昇や心拍変動(HRV)の低下:朝起きた時の心拍数がいつもより高い(平常時より5〜10拍/分以上高い状態が続く)、スマートウォッチのHRVの数値が明らかに低い日が続く。
- パフォーマンスの明らかな低下:数回のトレーニングにわたって、扱える重量や回数が目に見えて落ちている。(トレーニングの質が落ちている)
- 主観的な不調:ぐっすり眠れない、トレーニングへの意欲が全く湧かない
- 単なる筋肉痛とは違う痛み:関節にズキズキとした痛みがある、拍動を感じる鈍くて強い痛み、動くことも困難な筋肉痛 ※拍動を感じるような鈍くて強い痛みは肉離れの可能性があったり、痛みのあるなか無理をすると急に力が抜けて捻挫してしまったというケースをよく見られます。一度ケガすると2~4週はその部位を鍛えられないので無理は禁物です。
このような状態は、「オーバートレーニング症候群」につながる可能性もあります。
しかし、多くの人が感じる一時的な疲れはこれとは異なります。
これらのサインがなければ過度に心配しすぎる必要はありません。
「やってみてダメなら休む」で良い。ほとんどの人は“やらなさすぎ”
明確な赤信号が出ていないのであれば、それは「やってみても良い日」のサインかもしれません。
なぜなら、多くの真面目な方ほど、「やりすぎ」を心配するあまり、成長に必要な刺激を与えられていない「やらなさすぎ」の状態に陥っていることがあるからです。
筋肉痛で動けない、というほどでなければ、一度トレーニングを試してみてはいかがでしょうか。
「やってみてダメなら、その時に休めばいい」。
このくらいの気持ちでいることが、停滞を打ち破るきっかけになるかもしれません。
「ペースは?ボリュームは?」目的別に答える、あなたのための最適戦略
「やるべき日」に、では具体的にどう動けば良いのでしょうか。
「ペースやボリュームは?」という、現場で最もよく受ける質問に、あなたの目的に合わせてお答えします。
筋肥大(体を大きくしたい)が目的なら:「総ボリューム」こそが正義
もし、あなたの目的が筋肉を大きくすること(筋肥大)であれば、最も重要なのは、週単位での「総ボリューム(重量×回数×セット数)」をいかに増やしていくかです。
楽に筋肉がつく近道はありません。
正しい努力を積み重ねることが何よりの答えになります。
週に何回トレーニングすれば良いの?
Schoenfeld氏らの研究によれば、週の総ボリュームが同じであれば、トレーニング頻度が週1回でも週3回でも、筋肥大の効果に大きな差はないことが示唆されています。
つまり、あなたのライフスタイルに合わせて、無理なく継続できる計画を立て、着実に総ボリュームを増やしていくことが、最も賢い戦略なのです。
週に20セット以上からは、変化率が少なくなり、ケガのリスクも大きくなるので、12~20セットの範囲内で1セットごとの質を上げていきましょう。
どのくらいの重さがいいの?
総ボリュームのためのセット数がきまりました。
1セットごとの質はなにで決めるかというと、推定最大挙上重量の更新を目指しましょう。
推定最大挙上重量というのは、理論上持ち上げることのできる最大重量です。
これを計算するにはRM(最大反復回数)という考え方があります。
▶RMとは?もう迷わない!自分だけの最適な重さを見つける方法
筋力向上(重さを伸ばしたい)が目的なら:神経系の回復を最優先する
扱える重量を伸ばしたい、という「筋力向上」が目的の場合は、少し戦略が変わります。
この場合、筋肉そのものの回復だけでなく、筋肉に指令を出す「神経系」の回復が非常に重要になるためです。
高重量を扱うトレーニングは神経系への負担が大きいため、回復にはより多くの時間を要することがあります。
そのため、毎回限界まで追い込むのではなく、高重量を扱う日と、意図的に強度を落としてフォームを確認するような日を設けることが有効です。
このように強度に波をつけることで、神経系をしっかりと回復させることができます。
そして、安全かつ着実に筋力を伸ばしていくことが期待できます。
なぜこの戦略が有効なのか?本当のゴール「フィットネス」を伸ばすという考え方
「超回復」から「フィットネス」へ。思考をアップデートしよう
なぜ、明確なサインがない限りトレーニングを継続し、総ボリュームを追求することが重要なのでしょうか。
それは、あなたの本当のゴールが、短期的な「超回復」ではなく、長期的な「フィットネス」の向上にあるからです。
ここで、現代スポーツ科学の常識である「フィットネス-疲労モデル」をご紹介します。
これは、その日のパフォーマンスが「フィットネス(真の能力)」から、一時的な「疲労」を引いた結果で決まる、という考え方です。
このモデルの考え方は、Zatsiorsky氏らの研究でも示されており、疲労はフィットネスよりも早く回復するという特徴があります。

フィットネスとは
トレーニングを積み重ねることで得られる、長期的な筋力や能力、つまりあなたの「本当の実力」です。
習慣的な質の高いトレーニングにより緩やかに上がり、サボったりトレーニングが甘いと緩やかに下がります。
疲労とは
急速に上がり、急速に下がる、フィットネスのパフォーマンスを下げる要因のことです。
筋トレで一番重要なのは、この「フィットネス」を伸ばすこと
このフィットネスの向上こそが、科学的に見ても、あなたの目指す筋肥大や筋力向上と最も強く相関するものなのです。
もし、調子が悪かった日も「弱くなった」と落ち込む必要はありません。
それは、あなたのフィットネスが落ちたのではなく、一時的な疲労が上回っているだけです。
目先の疲労に惑わされず、いかにフィットネスという名の「資産」を長期的に積み上げていくか。
これこそが、効率的な成長の鍵を握っています。
補足:そのトレーニングを無駄にしないための食事と睡眠の科学
どんなに質の高いトレーニングをしても、食事と睡眠という土台がなければ、その効果は半減してしまいます。
特に、トレーニング後のタンパク質摂取については、少し古い常識にとらわれている方が少なくありません。
Aragon氏とSchoenfeld氏の研究によれば、トレーニング後30分といった特定の時間にこだわるよりも、1日を通して十分な量(体重1kgあたり1.6g〜2.2g)を摂取することの方がはるかに重要だとされています。
筋タンパク質の合成はトレーニング後24時間以上続くため、慌ててプロテインを飲むよりも、毎回の食事でタンパク質を意識することが大切です。
そして、7時間以上の質の良い睡眠は、どんなサプリメントにも勝る成長の源となることを、忘れないでください。
まとめ
- 「超回復」という言葉に縛られず、身体のサインで休みを判断しましょう。
明確な「赤信号」がなければ、それは成長のチャンスかもしれません。 - トレーニングの本当の目的は、長期的な「フィットネス」を高めることです。
日々の疲労に惑わされず、あなたの本当の実力を着実に積み上げていくことを目指しましょう。 - トレーニング頻度は、ライフスタイルに合わせて継続できる計画が最適です。
特に筋肥大が目的の場合、週の総ボリュームを確保することが最も重要になります。
この記事を読んで、超回復という言葉の呪いから少し解放されたのではないでしょうか。
日々のコンディションの波は、あなたが真剣にトレーニングに取り組んでいる証拠です。
そして、筋トレはきつい習慣に適応するためのプロセスです。
適応できた成果がかっこいい・きれいなラインを作ります。
頭で考えすぎて行動を止めてしまう前に、まずはご自身の身体と対話しながら、今日のトレーニングに向き合ってみませんか。
参考文献
- Schoenfeld, B. J., Grgic, J., & Krieger, J. 『How many times per week should a muscle be trained to maximize muscle hypertrophy? A systematic review and meta-analysis of studies examining the effects of resistance training frequency』 Journal of sports sciences (2019)
- Zatsiorsky, V. M., & Kraemer, W. J. 『Science and practice of strength training』 Human kinetics (2006)
- Aragon, A. A., & Schoenfeld, B. J. 『Nutrient timing revisited: is there a post-exercise anabolic window?』 Journal of the international society of sports nutrition (2013)
- 健康長寿ネット『オーバートレーニング症候群』
柔道整復師/姿勢改善パーソナルトレーナー
さいたま柔整専門学校卒業。
三郷市内グループ接骨院で院長を歴任。
現在、「姿勢改善Studio きずな日暮里」を運営中。