もし「枕なしで寝るとストレートネックが治る」という話を聞いて、試してみようと思っているなら、少し立ち止まって考えてみてください。
実は、ほとんどの人にとって「枕なし睡眠」は、かえって首や体に負担をかけてしまう可能性があるのです。
この記事では、枕なし睡眠の落とし穴と、ストレートネック改善の鍵を握る「胸椎」との意外な関係について、姿勢改善の専門家が分かりやすく解説します。
あなたの睡眠と首の健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
結論:「枕なし睡眠」はおすすめできない

「枕なしで寝るとストレートネックが治る」という話は、極一部の人にしか当てはまらない、誤解を招きやすい情報です。
なぜ、ほとんどの人に枕なし睡眠がおすすめできないのでしょうか。
なぜ枕が必要なのか?首のカーブと睡眠の深い関係
私たちの首の骨(頸椎)は、本来ゆるやかなS字カーブを描いています。
このカーブが、約5kgもある頭の重さを分散し、衝撃を吸収するクッションの役割を果たしているのです。
枕は、この首の自然なカーブを寝ている間も保つために非常に重要な役割を担っています。
適切な高さと硬さの枕を使うことで、首や肩への負担を最小限に抑え、リラックスした状態で眠ることができるのです。
枕なしで寝ると起こる3つのリスク
枕を使わずに寝ることは、首の自然なカーブを崩し、様々な不調を引き起こす可能性があります。
ここでは、特に注意したい3つのリスクについてお伝えします。
ストレートネックの悪化

枕なしで仰向けに寝ると、頭が後ろに反りすぎてしまい、首のカーブが不自然な状態になります。
これにより、首の骨や筋肉に過度な負担がかかり、すでにストレートネックの人はさらに悪化させてしまう危険性があります。
肩こりや首の痛み

首のカーブが失われると、首や肩周りの筋肉が常に緊張した状態になります。
その結果、血行不良が起こり、朝起きた時にひどい肩こりや首の痛みを感じる原因となります。
寝ている間に体が回復するどころか、かえって疲労を蓄積させてしまうことにもなりかねません。
いびきや睡眠の質の低下

首が不自然に反ることで、気道が狭くなり、いびきをかきやすくなることがあります。
また、呼吸が浅くなることで、睡眠の質が低下し、熟睡感が得られにくくなる可能性も指摘されています。
質の良い睡眠は、心身の健康にとって不可欠です。
身体に合わない枕で寝ることもリスクになります。
▶朝、首が痛いのは「枕の高さ」のせい?セルフケアと枕の見つけ方
あなたはどっち?枕なしでも大丈夫な人の「可能性のある」条件
では、なぜ一部の人は枕なしでも大丈夫だと言われることがあるのでしょうか。
それは、ある「たった一つの条件」を満たしているからです。
その条件とは、首だけでなく、背骨全体、特に「胸椎」の柔軟性が高いことです。
鍵を握るのは「胸椎の柔軟性」

ストレートネックと枕の問題を考える上で、最も重要なのが「胸椎(きょうつい)」です。
胸椎とは、背骨の中でも胸の高さにある12個の骨のことで、肩甲骨の間からみぞおちの後ろあたりに位置します。
この胸椎が十分に柔らかく、適切に反ることができる人は、枕なしで寝た場合でも、首への負担を軽減できる「可能性」があります。
▶キャット&カウで良い姿勢を作る?背骨と腹筋の連動トレーニング
しかし、胸椎が柔らかくても枕は必要です
いくら胸椎が柔らかくても枕なしで寝てしまうと、首に少し浮いた箇所ができてしまいます。
この浮いている部分は、自分の筋力で支え続けているため、首に負担がかかります。
首の自然なカーブをサポートし、余計な負担をかけないためにも、すき間を埋めるイメージで枕を使うことが重要です。
ごく稀に枕なしでも違和感が少ないと感じるケース
ごく一部の方には、枕なしで寝ても比較的負担が少ない、あるいは一時的に快適だと感じるケースがあることも報告されています。
- 後頭部が平らな方(絶壁頭の方):
後頭部が平らな形状の場合、頭の重さが広範囲に分散されやすく、マットレスとの間に大きな隙間ができにくいため、枕がなくても比較的安定すると感じることがあります。 - 非常に柔らかいマットレスを使用している方:
体が深く沈み込むような柔らかいマットレスの場合、頭や首もマットレスにフィットしやすく、枕がなくても首とマットレスの隙間が埋まりやすいことがあります。
しかし、これらのケースであっても、長期的な首の健康や質の良い睡眠のためには、ご自身の体型や寝姿勢に合った適切な枕を使用することが、私も含む多くの専門家によって推奨されています。
枕なし睡眠は、特定の不調を引き起こすリスクが依然として存在するため、注意が必要です。
胸椎の柔軟性セルフチェック
ご自身の胸椎が、枕なしでも対応できるくらい柔らかいかどうかをチェックしてみましょう。
- 壁に背中を向けて立ち、かかと、お尻、肩甲骨を壁につけます。
- その状態で、頭の後ろが自然に壁につきますか?
- もし頭が壁につかない場合でも、無理なく胸を張って、背中全体を壁に近づけることができますか?
もし胸椎が硬いと、頭を壁につけようとした際に、腰が大きく反ってしまったり、首だけが無理に反ってしまったりする傾向があります。
なぜ胸椎が硬いと枕なしでは特にダメなのか?
胸椎が硬い状態で枕なしで寝ると、首が浮きすぎてしまいます。
その結果、首の骨や筋肉に直接的な負担がかかり、ストレートネックを悪化させたり、新たな不調を引き起こしたりするリスクが高まります。
胸椎の柔軟性がないまま枕なしで寝ることは、首に無理な負担を強いることになり、さらに、首と頭のつけ根の緊張をつくり、顎を突き出すようなクセがとても強くなります。
ストレートネック改善の鍵!胸椎の柔軟性を高める方法
枕なし睡眠がおすすめできない理由と、胸椎の重要性をご理解いただけたでしょうか。
ここからは、ストレートネック改善の鍵となる「胸椎の柔軟性を高める」ための具体的なエクササイズをご紹介します。
【準備編】お腹の力で腰を固定!胸椎を安全に動かすための土台作り
ストレートネックを改善するには、実は首だけでなく、その土台となる背骨(特に胸椎:肩甲骨の間の背骨)の柔軟性が非常に重要です。
しかし、いきなり胸椎を反らせようとすると、腰を痛めてしまう危険があります。胸椎が硬いせいで、先に腰が反りすぎてしまうからです。
まずは、お腹の力で腰をしっかりと固定する「土台作り」から始めましょう。
- 椅子に浅く座り、骨盤を後ろに倒して背中を丸めます。(わざと猫背になるイメージです)
- その状態で、お腹の底から息を「ハーッ」と吐き切ります。
- 息を吐き切った時、お腹が自然と固くなる感覚があればOKです。
この「お腹で腰の反りを防ぐ感覚」を、次のステップでも使い続けます。
▶猫背を改善するには筋トレが必須?具体的なトレーニング方法とは
【実践編】壁を使って安全にアプローチ!胸椎伸展ストレッチ
お腹の感覚を掴んだら、いよいよメインの胸椎ストレッチです。
壁を使うことで、安全に、そして的確に胸椎を動かすことができます。
- 壁の前に立ち、両手を壁につけます。
- お尻を後ろに引きながら、ゆっくりと上体を倒していきます。
- 【準備編】で掴んだ「お腹で腰を固定する感覚」を意識し、腰が反らないように注意します。
- お腹の力を保ったまま、胸を床に近づけるように、ゆっくりと背中を反らせていきます。
- 腰ではなく、肩甲骨の間あたりが伸びている感覚(硬いと感じる)があれば、正しくできています。
- 心地よい伸びを感じる範囲で、深い呼吸を5回ほど繰り返しましょう。
【仕上げ編】首の上部を伸ばして、正しいカーブを取り戻す
胸椎の柔軟性を取り戻したら、最後に首の仕上げです。
特に硬くなりやすい、頭の付け根(上部頸椎)を優しく伸ばしていきましょう。
- わざと少し猫背気味になり座るか、立ちます。
- 両手を後頭部で組み、軽く頭を支えます。
- ゆっくりとあごを引き、目線を下に向けます。
- 手の重みを利用して、首の後ろ側を優しく伸ばしていきます。
- 「気持ちいい」と感じるポイントで、ゆっくり5秒キープします。
- 一度力を抜き、もう一度あごを引いて、さらに深くストレッチします。これを3回繰り返します。
胸椎が整うと、枕選びも変わる
胸椎の柔軟性が高まり、首の自然なカーブが保てるようになると、枕選びの基準も変わってきます。
無理に高い枕を使う必要がなくなり、より自然な寝姿勢をサポートしてくれる枕を選べるようになるでしょう。
枕は高すぎず、低すぎず首や肩のすき間を作らない形状が一番オススメです。
多くの方にとっては薄めに感じるかもしれませんが、ご自身の首のカーブに合ったものを選ぶことが重要です。
まとめ
- 枕なし睡眠はおすすめできない首の自然なカーブを崩し、ストレートネックの悪化や肩こり、いびきの原因となるリスクがあります。
- ストレートネック改善の鍵は胸椎の柔軟性を高めること 胸椎ストレッチで背骨の動きを改善し、首への負担を減らすことが重要です。
- 胸椎が柔らかくても枕なしはやめたほうがいい寝ているときのすき間が疲れる原因。すき間を埋めるイメージで枕を選びましょう。
「枕なしで寝ると良い」という情報に惑わされず、ご自身の体の状態を正しく理解することが大切です。
胸椎の柔軟性を高めるエクササイズを取り入れ、最適な寝姿勢と睡眠の質を手に入れましょう。
柔道整復師/姿勢改善パーソナルトレーナー
さいたま柔整専門学校卒業。
三郷市内グループ接骨院で院長を歴任。
現在、「姿勢改善Studio きずな日暮里」を運営中。