心拍数があなたのパーソナルトレーナー?健康を保つ運動の目安

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健康のために運動が良いことは分かっているけれど、いったい何をどれくらいやれば良いのか、迷ってしまうことはありませんか。
頑張っても効果が出にくかったり、逆に体を痛めてしまったりするのは避けたいですよね。

この記事では、あなたの腕にあるスマートウォッチなどを活用して「心拍数」を測り、自分だけの最適な運動強度を見つける方法を解説します。
データに基づいた科学的なアプローチで、運動と休養のベストバランスを知り、無理なく効果的にフィットネス習慣を築いていきましょう。

なぜ、あなたの心拍数が最高のパーソナルトレーナーになるのか?

多くの人が見落とす「自分に合った運動強度」の重要性

なんとなく「キツい運動」をすれば効果がある、と考えていませんか。
実は、効果的なトレーニングの鍵は、目的やその日の体調に合わせた「適切な強度」で運動することにあります。
強度が高すぎれば怪我のリスクが、低すぎれば期待した効果が得られない可能性があります。

METsと心拍数の違いとは?個別最適化できる心拍数トレーニングの利点

健康に関する情報でよく見る「METs」は、活動の強度を安静時の何倍かで示す指標です。
しかし、METsは個人の体力レベルを反映しないため、同じ運動でも人によって身体への負荷は全く異なります。
その点、心拍数はあなたの身体が発するリアルタイムの信号です。
まさしく、「あなただけの運動強度」を教えてくれる最高の指標なのです。

指標METs心拍数
特徴活動の種類で強度が決まる客観的な指標個人の身体反応を直接測る主観的な指標
メリット誰でも簡単に運動強度を把握できるその瞬間の自分に最適な負荷が正確にわかる
デメリット個人の体力や年齢、その日の体調を考慮できない計測するためにデバイスが必要になる

トレーニングの第一歩:現状把握と目標設定に必要な2つの指標

心血管フィットネスのバロメーター「安静時心拍数(RHR)」の測り方

安静時心拍数(RHR)とは、心身ともにリラックスした状態での1分間あたりの心拍数です。
この数値が低いほど、心臓が効率よく機能している証拠です。
これが、現在のフィットネスレベルを知る重要な手がかりとなります。
以下の手順で、測定してみましょう。

  1. 朝、目覚めたら、ベッドから起き上がらずに仰向けのままリラックスします。
  2. 手首の親指側(2本の筋が浮き出る人はその少し外側)に人差し指と薬指で軽く圧迫します。
  3. 中指で2本の指の間に軽く触れます。
  4. 1分間の脈拍数を数えます。(または30秒数えて2倍する)

※一般的な計り方で拍動を感じにくい場合は、この方法を試してみてください。
 私が臨床でお客様にお伝えしている、脈を感じやすくなるコツです。

運動強度の基準点となる「最大心拍数(MHR)」の計算方法

最大心拍数(MHR)は、最大限の努力をした際に心臓が拍動できる上限値のことです。
これは運動の強度を設定する際の「天井」で、年齢を重ねるにつれて自然に低下していきます。
最も簡単な推定式は「220 − 年齢」で、まずはこの式でご自身のMHRの目安を把握しましょう。

目的別に使い分ける「6つの心拍ゾーン」とは?

運動効果を最大化する鍵は、心拍ゾーンの理解にある

運動中の心拍数を最大心拍数の何%にあたるかで分けたものが「心拍ゾーン」です。
各ゾーンは身体のエネルギーの使われ方と密接に関係して。
ゾーンを意識することでトレーニング効果を最大化できます。
ここでは、運動と休養を6つのゾーン(ゾーン0〜5)に分けて見ていきましょう。

【ゾーン0:消極的休養:パッシブレスト】(安静時)

このゾーンは、睡眠中や安静にしている状態を指し、トレーニングの土台となる最も重要な期間です。
運動によってダメージを受けた身体を修復し、成長させるための時間となります。
十分な睡眠とリラックスが、最高の回復手段です。

【ゾーン1:積極的休養/ウォームアップ】(最大心拍数の50~60%)

ウォーキングや軽いストレッチなど、「アクティブレスト」とも呼ばれるごく軽い活動がこのゾーンです。
血流を促進して疲労回復を助けたり、運動前のウォーミングアップや運動後のクールダウンとして最適です。
厚生労働省は、このような軽い強度の運動も含めた「身体活動」を毎日60分行うことも推奨しており、日常生活の中でこまめに動くことも健康維持には大切です。

【ゾーン2:低強度】(最大心拍数の60~70%)

「楽に会話ができる」と感じる程度のジョギングなどが、このゾーンの運動です。
エネルギー源として脂肪が使われる割合が高く、長時間続けやすいため、ダイエットや持久力の基礎作りに効果的です。
そのため、「脂肪燃焼ゾーン」とも言われます。

心地よいと感じるペースで、リラックスして取り組みましょう。

【ゾーン3:中強度】(最大心拍数の70~80%)

息が弾み、「短い文章なら話せる」くらいの、ややキツいと感じる強度の運動です。
このゾーンでのトレーニングは、心臓や肺の機能を高め、スタミナを向上させるのに最も効率的とされています。
ここから、運動の強度があがるにつれて、エネルギー源が脂肪から糖質(グリコーゲン)へと切り替わります

厚生労働省が推奨する「息が弾み、汗をかく程度の運動」とは、まさにこの心拍ゾーン3にあたる運動のことです。

ゾーン3に達しやすいランニングの消費カロリーはこちら
ランニングで痩せるには?どれくらい走れば効果が出るか徹底解説

【ゾーン4:高強度】(最大心拍数の80~90%)

息が切れ、会話が困難になるほどのキツい運動です。
短時間で心肺機能と筋力に大きな負荷をかけるため、運動能力をさらに向上させたい場合に有効です。
より高いフィットネスレベルを目指す方向けのトレーニングと言えるでしょう。

HIITトレーニングを実践するなら一瞬でもこの心拍数に届くように頑張りましょう。
HIITダイエットで最速脂肪燃焼!「痩せない」を卒業する秘訣

【ゾーン5:最大努力】(最大心拍数の90~100%)

全力疾走など、数秒から数十秒しか維持できない限界レベルの運動です。
瞬発力やスピードを最大限に高める効果があり、主にアスリートが競技パフォーマンス向上のために行います。
専門的な指導のもとで、計画的に取り入れるべきゾーンです。

【筆者の体験談】

ぼくも30才の頃に、最大心拍数の95%~100%に達する運動を経験しましたが、まさに「地獄のような」きびしさでした。
時速20km以上のスプリントと時速12km以上のランニングのインターバル走を10分くらい続けてようやく到達するレベルです。

「目標心拍数」の計算方法(カルボーネン法)

最大心拍数に%をかけるだけでは、個人の体力レベルが考慮されていません。

そこで、安静時心拍数も使って、より「あなたに合った」目標心拍数を計算する方法がカルボーネン法です。

【計算式】

目標心拍数 = ((最大心拍数 – 安静時心拍数) × 運動強度%) + 安静時心拍数

【計算例】40歳、安静時心拍数60bpmの人が、70%の強度(ゾーン3)で運動したい場合

  1. 最大心拍数(MHR)を推定します。 220 – 40歳 = 180 bpm
  2. 心拍予備能(HRR)を計算します。(運動で使える心拍数の伸びしろ) 最大心拍数(180) – 安静時心拍数(60) = 120 bpm
  3. 目標心拍数を算出します。 (心拍予備能(120) × 運動強度70%(0.7)) + 安静時心拍数(60) = 144 bpm

この計算により、この人は心拍数を144bpmに保つことで、自分に最適なゾーン3のトレーニングができるとわかります。

自分の目標心拍数ゾーンが具体的にいくつか知りたい方はこちらの計算ツールをご利用ください。
インターバルタイマー&目標心拍数計算ツール

実践ガイド:健康維持・向上のための具体的なトレーニング計画

健康維持に最低限必要な運動量とは?段階的な目標設定を知る

「健康のために、最低限どれくらい動けば良いの?」という疑問に、世界保健機関(WHO)や日本の厚生労働省が明確な答えを示しています。

まず、厚生労働省が推奨する目標は「息が弾み汗をかく運動を、週に60分以上」行うことです。
これは、健康を維持するための「最低限のスタートライン」と捉えると良いでしょう。

さらに、WHO(世界保健機関)などが推奨する、より高い健康効果を得るための理想的な目標が「中強度の有酸素運動を、週に150分以上」です。

まずは週60分を目指し、慣れてきたら週150分を目標にする、というように段階的に取り組むことをお勧めします。

ポイント:少しでも動くことが大切

この数字はあくまで目標であり、達成できなくても健康効果が全くないわけではありません。
研究では、推奨量の半分程度の運動でも、何もしない場合と比較して死亡リスクが大幅に低下することが示されています。
まずは「今より少しでも多く動く」ことを意識し、できる範囲から始めてみましょう。

忘れてはいけない筋力トレーニング

ガイドラインでは、有酸素運動に加えて「週に2日以上の筋力トレーニング」も推奨されています。
大きな筋肉を使うスクワットや腕立て伏せなどを、無理のない範囲で取り入れると、さらに健康効果が高まります。
健康づくりのためには、有酸素運動と筋力トレーニングの両方をバランス良く行うことが理想的です。

無理なく続けるためのスケジュールの立て方

大切なのは、継続することです。
ご自身の体力や生活リズムに合わせて、無理のない計画を立てることが成功の鍵となります。
以下にスケジュールの例を挙げますので、参考にしてみてください。

  • 平日忙しい方:週末にまとめて60分〜75分の運動を行い、平日は通勤時に一駅分歩くなど、積極的休養(ゾーン1)を取り入れる。
  • 毎日少しずつ派の方:1日30分の中強度運動(ゾーン3)を週に5日行い、2日はしっかり休む(ゾーン0)。
  • 初心者の方:まずは週に2〜3回、30分の低強度運動(ゾーン2)から始め、徐々に時間や強度を増やしていく。

頑張りすぎは逆効果。「オーバートレーニング」の兆候と対策

良かれと思って運動をやりすぎると、回復が追いつかずにパフォーマンスが低下し、慢性的な疲労状態に陥ることがあります。
これを「オーバートレーニング」と呼び、身体が発するサインを見逃さないことが重要です。
「なんだか最近やる気が出ない」「よく眠れない」といった状態が続く場合は、勇気をもって休養を取りましょう。

回復が追いついていないサイン?安静時心拍数の変化に注目する

オーバートレーニングの分かりやすい兆候の一つが、朝の安静時心拍数の上昇です。
普段と比べて安静時心拍数が5〜10拍/分以上高い状態が続く場合は、疲労が蓄積しているサインかもしれません。
トレーニングの強度を落とすか、休息日を設けて身体を回復させることを優先しましょう。

まとめ

この記事でお伝えした大切なポイントを3つにまとめました。

  • 心拍数は最高のパーソナルトレーナー
    個人の体力やその日の体調をリアルタイムで反映する心拍数は、あなたに最適な運動強度を教えてくれる最も信頼できる指標です。
  • 6つの心拍ゾーンを理解し、使い分ける
    休養から最大努力まで、目的別にゾーンを意識することで、運動効果を最大化し、効率的に目標を達成できます。
  • 運動と同じくらい「休養」が重要
    身体が成長するのは休んでいる時であり、安静時心拍数などのデータを活用すれば、回復状態も客観的に管理できます。

これまで運動の「ものさし」が分からず、漠然とした不安を感じていた方もいるかもしれません。
しかし、心拍数という客観的なデータを用いることで、その不安は「自信」へと変わっていくはずです。

参考文献