ダイエットを頑張っているのに、体重が変わらない…。
そうした状況に、心が折れそうになることもあるでしょう。
しかし、その停滞はあなたの努力が実を結び、身体がトレーニングに適応した結果なのです。
この記事では、停滞期が起こる科学的メカニズムを解き明かし、それを乗り越えて「痩せ体質」になるための具体的なステップを解説します。
なぜ停滞は起きるのか?頑張りが報われない2つの科学的理由
ダイエットを続けていると、多くの人が「停滞期」という壁に直面します。
その原因は努力不足にあるのではなく、むしろ身体がトレーニングに適応しようとする正常な反応です。
このメカニズムを理解することが、停滞期を乗り越える第一歩となります。
理由①:身体がエネルギーを効率化する「省エネモード」
同じ運動を継続すると、身体はその動きに慣れ、より少ないエネルギーで効率よく活動できるようになります。
これは身体の「適応」と呼ばれる現象で、いわば燃費の良い「省エネモード」に切り替わった状態です。
この省エネモードが、以前と同じ運動をしても痩せにくくなる原因の一つと考えられます。
運動効率の向上というメカニズム
例えば、毎日5kmのランニングを続けているとします。
当初は息が切れ、大変だった運動も、継続するうちに心肺機能や筋力が向上し、次第に楽にこなせるようになります。
これは、身体が運動に適応し、効率的なエネルギーの使い方を学習した証拠です。
生命を維持するための防衛システム「ホメオスタシス」
食事制限などによって体重が急激に減少すると、身体は生命の危機を感じることがあります。
そして、「飢餓状態」と判断し、消費エネルギーを抑えようとする自己防衛機能が働くのです。
この「ホメオスタシス(恒常性)」という生命維持システムが、さらなる体重減少にブレーキをかけることがあります。
理由②:体重計の数字に隠された「体組成」の変化
停滞期に悩む方の多くが、体重という単一の指標に囚われがちです。
しかし、ダイエットの成功は、体重計の数値だけで測れるものではありません。
重要なのは、体重の内訳である「体組成」の変化に目を向けることです。
見た目の変化は「筋肉増加」のサイン
筋力トレーニングを取り入れている場合、体脂肪が減ると同時に筋肉量が増えることがあります。
筋肉は脂肪よりも密度が高く、同じ重さでも体積が小さいため、「見た目は引き締まったのに体重は変わらない」という現象が起きるのです。
これは、ダイエットが順調に進んでいる非常にポジティブな兆候と言えます。
脂肪と筋肉の体積の違い
脂肪と筋肉の体積には、大きな差があります。
同じ1kgでも、脂肪が大きなペットボトルだとすれば、筋肉は小さな缶コーヒーほどの大きさに相当します。
体重が変わらなくても、体脂肪率が下がり、見た目に変化が現れているのであれば、それは紛れもなくダイエットの成果です。
停滞期を克服する3つの具体的な戦略
停滞期は、身体が現在のトレーニングに慣れてしまったというサインでもあります。
それならば、身体の予想を上回る新しい刺激を与え、この状況を戦略的に打開していきましょう。
ここでは、停滞期を打破するための3つの具体的な戦略をご紹介します。
戦略①:運動のマンネリ化を防ぐ「緩急トレーニング」
身体の省エネモードを解除するには、いつもと違う「変化」で刺激を与えることが最も効果的です。
運動の強度に「緩急」をつけることで、代謝を再活性化させ、再び脂肪が燃えやすい状態を目指します。
ここでは、性質の異なる2つの有酸素運動を組み合わせる方法を解説します。
【週2回】短時間で集中する「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」
HIITとは、「高強度の運動」と「短い休憩」を交互に繰り返すトレーニング法です。
このトレーニングの大きな利点は、運動後も数時間にわたりカロリー消費が続く「アフターバーン効果」にあります。
短時間で効率よく脂肪を燃焼させ、心肺機能も同時に高めたい場合に適しています。
▶HIITダイエットで最速脂肪燃焼!「痩せない」を卒業する秘訣
【週3回】着実に脂肪を燃やす「低強度定常状態トレーニング(LISS)」
LISSとは、会話ができる程度のペースで、30分以上継続して行う運動です。
ウォーキングや軽いジョギングなどがこれにあたり、脂肪を主なエネルギー源として使うため、効率的に脂肪を燃焼させることができます。
HIITで刺激を与えた身体を回復させながら、着実に脂肪を減らしていく「積極的休養」としての役割も担います。
停滞期を乗り越えるための1週間の運動モデルプラン
HIITとLISSの効果的な組み合わせ方について、以下にモデルプランを示します。
これはあくまで一例ですので、ご自身のライフスタイルに合わせて調整してください。
曜日 | トレーニング内容 | ポイント |
---|---|---|
月 | HIIT | 20秒の全力運動と40秒の休憩を15セット実施 |
火 | LISS | 45分間の早歩きなどをリラックスして行う |
水 | 筋トレの日 | (戦略②で解説) |
木 | LISS | 45分間のサイクリングなど、種目を変えてみる |
金 | HIIT | 30秒の全力運動と30秒の休憩を15セット実施 |
土 | 筋トレの日 | (戦略②で解説) |
日 | 完全休養 | ストレッチや散歩などで心身をリフレッシュ |
戦略②:代謝の基礎を作る「筋力トレーニング」の導入
有酸素運動が運動中の「カロリー消費」であるなら、筋力トレーニングは将来の「基礎代謝への投資」です。
筋肉は、安静時にもカロリーを消費してくれる「代謝エンジン」のような存在です。
このエンジンを大きく育てることが、痩せやすく太りにくい身体を作るための確実な方法と言えます。
脂肪燃焼効果を高める「筋トレ→有酸素」の順番
もし同じ日に筋トレと有酸素運動を行うなら、「筋トレを先」に行うことを推奨します。
筋トレを行うと、脂肪の分解を促す成長ホルモンなどが分泌され、脂肪が燃えやすい状態になります。
その直後に有酸素運動を行うことで、分解された脂肪を効率よくエネルギーとして利用できるのです。
「代謝を高める」トレーニング:BIG3
全身の大きな筋肉を鍛えることが、効率よく代謝を上げるコツです。
特に以下の3つのトレーニングは「BIG3」と呼ばれ、非常に効果が高いことで知られています。
- スクワット: 下半身全体の大きな筋肉を動員する、基本かつ重要なトレーニングです。
- デッドリフト: 背中からお尻、太もも裏まで、身体の背面全体を強化します。(ダンベルなどでも代用可)
- ベンチプレス: 胸や肩、二の腕など、上半身の大きな筋肉を鍛えます。(腕立て伏せでも同様の効果が得られます)
※女性の場合は、スクワットではなく、ヒップスラストに代用するのがオススメです。
スクワットは主に前ももを鍛えるエクササイズですが、前もものボリュームが増えると見た目のバランスが気になる方が多いと思います。
トレーニングを置き換えてヒップをメインで鍛えると、下半身の大きな筋肉を鍛えつつ、ボリュームアップしてもバランスの良い体型になります。
戦略③:筋肉量を維持するための「栄養戦略」
ダイエットの成功には、運動と食事が不可欠です。
せっかくトレーニングで筋肉に刺激を与えても、栄養が不足すれば筋肉量は維持できません。
身体が必要とする栄養素を適切に摂取し、賢く筋肉を守り育てましょう。
カロリーだけでなく「PFCバランス」を意識する
ダイエット中は、摂取カロリーだけでなく食事の「質」、特にPFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物)が重要です。
筋肉の材料となるタンパク質が不足すると、身体は筋肉を分解してエネルギーを作り出そうとします。
体重1kgあたり1.6g程度を目安に、肉、魚、卵、大豆製品などから意識的に摂取しましょう。
▶総合ダイエット計算ツール (PFC/BMI/BMR/TDEE/METs)
運動後の栄養補給「ゴールデンタイム」の活用
運動後30分から1時間程度は、身体が栄養を効率よく吸収する「ゴールデンタイム」と呼ばれています。
このタイミングでタンパク質を補給することで、筋肉の修復と成長を最大限にサポートすることができます。
トレーニング後にプロテインやサラダチキンなどを摂取する習慣を取り入れるのがおすすめです。
継続のためのメンタルケアと視点の転換
ここまで戦略的な話をしてきましたが、何より大切なのは「継続すること」です。
そして、続けるためには、時には自分を許し、視点を変えるといった「心の栄養」も必要になります。
どうしても辛くなった時は、以下の2つのことを思い出してください。
心と代謝を再起動する「リフィードデイ」の導入
厳しい食事制限を続けると、心身が疲弊し、代謝が低下してしまうことがあります。
そうした場合は、週に1度など、計画的に「食事量を増やす日(リフィードデイ)」を設けてみましょう。
炭水化物をしっかり摂ることで、停滞していた代謝の再起動を促し、心理的なリフレッシュにも繋がります。
体重計の数字から離れ、自分の「成長」に目を向ける
体重という指標は、その日の水分量や食事内容で簡単に変動する、非常に不安定なものです。
その数字に一喜一憂するのではなく、「以前より重い重量を扱えるようになった」「楽に走れる時間が増えた」など、ご自身の「成長」に目を向けてみませんか。
その小さな成長の積み重ねこそが、確実にあなたの身体を変化させ、未来のあなたを作っていきます。
まとめ
ダイエットの停滞は、あなたの努力が無駄ではないことを示す大切なサインです。
そのサインを正しく読み解き、戦略的にアプローチを変えることで、必ずその壁は乗り越えられます。
最後に、この記事の要点を3つにまとめました。
- 停滞は身体の適応
身体が運動に慣れて効率化したり、筋肉量が増加したりしているポジティブな兆候と捉えましょう。 - 運動に「変化」を取り入れる
HIITとLISSを組み合わせるなど、常に新しい刺激を与えることで、身体のマンネリ化を防ぎます。 - 筋トレと食事で基礎代謝を向上させる
筋力トレーニングで代謝エンジンを育て、タンパク質中心の食事で筋肉を維持することが、長期的な成功への鍵です。
体重が思うように減らないと、これまでの努力が無駄に感じられるかもしれません。
しかしそれは、あなたの身体が次のステージに進む準備が整ったという合図です。
まずは、今回ご紹介した戦略の中から、一つでも試せそうなものから始めてみてください。
思っていたより身体を動かすことができて、ダイエットをより楽しく続けられるはずです。
参考文献
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- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
柔道整復師/姿勢改善パーソナルトレーナー
さいたま柔整専門学校卒業。
三郷市内グループ接骨院で院長を歴任。
現在、「姿勢改善Studio きずな日暮里」を運営中。